
第7回『駿河塗下駄(するがぬりげた)』
目次
静岡で作られる「駿河塗下駄(するがぬりげた)」とは?
塗下駄の職人はもともと漆器(しっき)を作っていた?
駿河塗下駄とは、静岡県の伝統工芸品としても有名な下駄のこと。独特の艶(つや)をもつ「漆塗(うるしぬり)」をはじめ、金や銀の粉で表面に模様(もよう)をつける「蒔絵(まきえ)」などの伝統的な方法で作られています。
色あざやかでユニークなデザインが多く、とんぼの羽のような模様ができる「蜻蛉塗(せいれいぬり)」や、卵(たまご)の殻(から)を貼(は)り付ける「卵殻張り(らんかくばり)」といった「変わり塗り」と呼(よ)ばれる技術が使われているのが特徴(とくちょう)です。
江戸時代から東海道の中心地として全国の流行が集まっていた静岡県では、旅人の必需品(ひつじゅひん)である、草鞋(わらじ)や草履(ぞうり)、そして下駄などの「はきもの」がたくさん作られていました。明治時代になり、下駄職人の本間久次郎(ほんまきゅうじろう)さんが、“お試し”として下駄に漆を塗って売ったことが、「駿河塗下駄」のはじまりだといわれています。
もともと静岡県では、木や紙などに漆を塗り重ねて作る「漆器」の生産が盛ん(さかん)で、海外へもたくさん輸出されていました。ところが第一次世界大戦のあと、輸出が減ってしまいます。すると多くの漆器職人が、漆器の高度な装飾(そうしょく)技術を活かして下駄が作れるとあって、塗下駄作りに転向。それにより生産量と技術力が上がり、日本全国で大ヒットしました。のちに“塗下駄といえば静岡”といわれるまでに成長し、現在では「駿河塗下駄」として、静岡県の郷土(きょうど)工芸品に指定されています。
職人の高い技術が光る美しい塗下駄作り
駿河塗下駄作りには、細かく分けると完成までに30~50もの工程があります。デザインによっては、1足を完成させるまでに約1年半かかるものもあるのだとか。とくに温度が影響(えいきょう)する漆塗はむずかしく、職人の高い技術が必要です。
その職人の中でも、静岡市伝統工芸技術秀士(しゅうし)として指定されているのは「駿河塗下駄工房 佐野(するがぬりげたこうぼう さの)」を営む、佐野成三郎(せいざぶろう)さんただひとり。数少ない後継者(こうけいしゃ)を育て、伝統を守り続けています。
細かな工程で、たくさんの技術を使い作られる塗下駄。今でも職人の技術の高さや工夫で時代に合った下駄を考え、新しい魅力(みりょく)を作り出しています。
駿河塗下駄の製作工程
➀下駄の原型を作る
➁強化のため漆の木から採取した、生漆(きうるし)を塗る
③補強(ほきょう)として、漆とのりを混ぜたもので布を貼る
➃さびを付け、乾(かわ)いたら石で研ぐ作業を2~3回繰り返す
➄漆が乾いたら、表面が平らになるように駿河炭(するがずみ)で研ぐ
⑥表面に絵や模様をつける
⑦なめらかにするため製品を磨(みが)き上げる
⑧鼻緒(はなお)を付ける
⑨完成
オリジナルの下駄を作りに静岡市の工房へ行こう!
現在では、伝統の技法を活かしながらも、貝殻やラメを使い、動物や魚などが描(えが)かれたレトロモダンな下駄なども増えています。はいているときはもちろん、脱(ぬ)いだときにもきれいな絵が楽しめ、インテリアとしても人気です。
「駿河塗下駄工房 佐野」をはじめ静岡市にある工房では、直接オーダーしてオリジナルデザインの駿河塗下駄を作ることができます。今では着物や浴衣だけではなく、ジーンズやロングスカートなどの洋服にも合うようなカラフルでモダンなデザインの下駄もたくさん作られていますよ。
古くから日本人の体になじんだ「はきもの」で、健康にもとても良いと言われている下駄。自分だけのお気に入りの下駄を作りに、ぜひ一度工房をたずねてみてくださいね。
ランランちゃんの
今日のまなび
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カラフルな下駄には、漆器の技術が活用されている
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1足作るのに約50もの工程が必要な下駄がある
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見た目にも美しいデザインで、インテリアとしても人気
取材協力

駿河塗下駄工房 佐野
東海道の旧宿場「府中宿」にある塗下駄工房。静岡市伝統工芸技術秀士の佐野成三郎さんと、娘の佐藤仁美さんの親子2代で、カラフルでユニークな塗下駄を作り続けています。
・静岡県郷土工芸品振興会
http://www.shizuoka-kougei.jp/craft/suruga-nurigeta/
・日本伝統文化振興機構
http://www.jtco.or.jp/japanese-crafts/?act=detail&id=278&p=22&c=4